『コンビニ人間』と『ポトスライムの舟』を読んだ。前者が2016年、後者が2009年に芥川賞を受賞している。
読みやすかったのは、『コンビニ人間』だった。「文体が合う合わない」という話があるが、この視点では自分に合ったのかもしれない。
『ポトスライムの舟』はずいぶんと前にーーーたぶんバックパッカー旅をする前だったかなーーー読んだので、2回目となる。こちらは読むのに苦労した。
派遣社員が世界一周の旅のために貯金をする、というテーマは親しみやすかったが、主人公の「ナガセ」という表記を読むたびに「○○せ」という動詞に見えてしまい、脳内で変換するに微量の手間があったのもあるように思う。「十二月の窓辺」という別の話も残っていたが、いまは好奇心をうごかすのが目的だし「ここで変にがんばって読んでもよくない」と思い、次の本へと目線をうごかすことにした。
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『コンビニ人間』を読みながら、方丈記の著者である鴨長明がいう無常観と渦巻きが浮かんだ。すべてのものは常に変わっていき、同じものはひとつとしてない、というやつである。川にできている渦巻きは、繰り返しまわり続ける変化のないもののように見えるが、その内部では常に水が入れ変わっている。そんな状況が「コンビニ」を通して浮かんだ。
そのコンビニを「光の箱」と表現していて、すっと頭に光景が浮かんだ。たったひとつの言葉で、読み手の脳を稼働させてしまう。表現力というのはすごい。
『コンビニ人間』をおもしろく読めたもうひとつの理由は、この小説の内容が自分の「社会になじむ」「ズレている」というものと重なっていたのもあったと思う。
主人公の古倉恵子には、あまり”こだわり”というのがない。「社会になじみたい」というよりも「まぁ、なじんでおくか」くらいの冷めた感じで、それをストレスなく「コンビニ」を通して実行している。「将来こんなことをしたい」というのもなく、店員という固定化された「部品」として、コンビニの無常観の中で動いている、働いている、生きている。
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ぼくは古倉恵子のように淡々に「まぁ、なじんでおくか」とは割り切れない。割り切るとケガをする。どちらかというと「なじみたい」に近い。さらにそこに「自分なりになにか表現したい」という欲求があるから、脳内には「はたらく ×(または +)表現する = 社会になじむ」という式ができあがり、難易度をあげている。掛け算(×)か足し算(+)か、というところはなかなか重要なポイントにもなってくる。
ただ、『コンビニ人間』を読み進めていくと、とくに欲求がないようにみえていた古倉恵子が、自分なりのこだわり、宿命のようなものを見つけていく光景が現れる。
『コンビニ人間』は「普通に生きるとは」というのがテーマにされていると言われたりしている。それはぼくにとっては「社会になじむとは」ということに近いし、この小説を読むと改めて「なじむ」「なじまない」の2つではなく、その間に「なじむーxxxーxーxxxーxxーなじまない」とたくさんの状態が存在しているというのを感じる。
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日々ひたすら働いている、という意味では『ポトスライムの舟』もそうなのだけど、こっちは「目標の意味」が溶けていくような読書体験だった。
主人公のナガセは、工場、カフェ、パソコン教室と3つの仕事をしながら、日々ギリギリで暮らしているのだけど、それは金銭的に不安だから、というよりは「時間ができると不安だから」というのもあった。時間をつくらないために、たくさん働く。そこには、時間ができると人生の無意味さにのみ込まれてしまいそうな恐怖感を感じる。
そんである日、工場の壁に貼ってある世界一周旅行のポスターが目に止まり、工場の仕事の年収とこの費用が一緒であることに気づく。カフェとパソコン教室の仕事だけで生活できるように1年間がんばってみよう、と貯金計画がはじまる。
読み進めていくと「目標」がだんだんと溶けていき、あいたスペースにどんどん「他者」が入り込んでいくような印象を受けた。そしてナガセはそれを肯定しているようにもみえる。目標を見つけたが、うまくいかない、まぁ、そんなものか、こういうのもありかもしれない、という良い意味での”こだわり”の薄さ、受け入れを感じた。
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久しぶりの小説体験、とりあえず2冊を終えた。古倉恵子は社会からズレているのか、はまっているのか。ナガセを通して「目標の幻想性」「感知できないもの」というようなことを考えた。
さて、次は『ハンチバック』と『火花』がひかえている。とりあえずは、さまざまな作家の世界に触れてみて、なにか自分のなかにあらわれてくるのを待ってみるのもいいかもしれない。
繰り返すが、小説を通して自分の「好奇心」という生きものをいかすのが目的だから、これが機嫌を損ねそうなときは、素直に読むのをやめるのもアリだということは意識しておきたい。まぁ、このバランスもむずかしいのであるが…
※サムネはUnsplashより
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