無知のこわさ

先日、彼女と祭りにいってきた。そのために浴衣を買った。ZOZOTOWNで初回割引2000円が適用され、最終的に4000円ほど支払い、入手できた。

祭り自体はとても楽しかった。15時頃に出発するという予定だったが、そのあたりで豪雨となり「大丈夫かな…」と二人で心配していたら、数分で止んだ。その日が祭りの最終日ということもあり、「また降るかな」という不安を抱えながらも出発した。

結局、スコールのような数分の雨が何度か降ることはあったが、持参した傘で防御したり、屋根下に一時的に避難したりして、雨はぼくたちの楽しみを妨害するほどではなかった。むしろ、雨上がりに綺麗な虹がかかり、楽しさが増えたほどである。大きな神輿が移動しては、4つ集まり、戦いのようなものを繰り広げたりしていた。濡れた地面での反射もあってか、ちょっと神々しささえ感じた。ホットドッグを食べたり、ビールを飲んだり、とても楽しい1日であった。山芋のスティック揚げは、戻った頃には売り切れていた。

その日の夜、ぼくは着ていた浴衣と帯を、ごしゃっと洗濯カゴに放り込んだ。

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最後に浴衣を着たのはいつだろう…という感じだったぼくは、浴衣を普段洗っているTシャツと同じように扱い、翌朝、洗濯カゴの中身をそのまま洗濯機に入れた。30分ほど経ってでてきたのは、しわくちゃになった浴衣である。その浴衣をみて、ぼくはなにも思わなかった。そのまま平然と干し、アイロンをすればビシっとしわは取れるだろうと楽観的であった。

事の重大さに気づいたのは、アイロンをし終わったあとである。しわくちゃだった浴衣は、まだしわくちゃだった。「これ、こういうしわくちゃなデザインの浴衣ってことにできないかな」と考えたが、それは一瞬で却下された。

やっちまった。おれは取り返しのつかないことを浴衣にしてしまった。焦りがではじめ、スマホで「浴衣 洗濯」と検索する。基本は手洗い、陰干し、帯は洗わない、アイロン時は当て布をするなどの情報がでてくる。時間はもどらない。

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自分と同じミスをおかしてしまった人は他にもいるだろうと、今度は「浴衣 しわくちゃ」と検索する。しかし、でてきた記事は「しわくちゃにならないように」という予防策のようなものがほとんどで、それを実際に実行してしまったケースに寄り添う情報はなかった。唯一近かったのは、誰かが質問しているやつであった。それも、そこまでぼくには寄り添ってくれていなかった。「まさかそんなことはしないでしょう」というケースになってしまったような気持ちになり、焦りに孤独感が混じる。

さすがにクリーニングに出せばなんとかなるだろう、と「浴衣 クリーニング」で検索する。よかった、浴衣のクリーニングは存在するようである。費用の相場は1000〜3000円くらいということであった。

でも、仮に3000円かかったとしたら、それはもう購入価格の7割を超える。パソコンの修理代が高くて新品を買ったほうがいい、なんてことはあると聞くが、それに近いことが浴衣でも起こるのか。さらにぼくは「まさかそんなことはしないでしょう」ということをやってのけているので、相場がこれを考慮していない可能性を感じてきた。やっちまった代が上乗せされ、3000円以上の費用になるかもしれない。

でもとりあえず、近所のクリーニング店を検索してみた。そのサイトを見ても「浴衣」の文字はなかった。とりあえず持っていくのもありだが、イレギュラー対応になりそうな気もしてきて、「これはちょっと…」と言われて持ち帰ることになり、途方にくれる光景が浮かんだ。

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まだ自力でできる選択肢が1つ残されていた。アイロンがけである。すでに一度やってはいたものの、スチームをかけずにアイロン台にのせてやっていた。スチームをかけてやってみたら、もしかしたらいけるかもしれない。ぼくのアイロンは、干したままでもアイロン台に乗せても、どちらでもいけるタイプのやつである。

浴衣のタグを確認して、それが綿100%であることを確認する。その表記の横に「40 」という数字があったが、それがなんなのか調べて、その上でさらに対策を練る気力はもうぼくには残っていなかったので、見て見ぬふりをして、アイロン台を再びとり出した。

この頃には、ネット記事で知った「当て布」という存在さえも認知の外に放り出していたぼくの脳であるが、そんな状況でも精いっぱい対応しようとはしていた。一度目のアイロンがけをおえたしわくちゃな浴衣を台に乗せ、スチームのボタンを押して、ゆっくりアイロンを動かす。生地自体に損傷がないのか確認したところ、問題はないようだった。しかも、しわがさっきより伸びている!これはいけるぞ、と興奮してそのまま30分ほど作業を続けた。

二度目のアイロンがけをおえたその浴衣は、「しわくちゃ」という言葉が似合わないほどにはしわが伸びていた。これだったらまた着れるだろう。浴衣の危機をなんとか乗り越えることができてホッとした。

そもそもの洗濯の段階で気を遣っていれば、もっと綺麗に仕上がったろうに。でも時間はもどらない。

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無知というのはこわい。洗濯ネットにタオルを入れるくらいだったぼくの洗濯スキルに、「浴衣は気をつけろ」という注意書きが加わった。

※サムネはUnsplashより

yoshikazu eri

当サイトの運営人。大阪生まれ千葉育ちの87年生まれ。好奇心旺盛の飽き性。昔は国語が苦手だったが『海辺のカフカ』を2日間で読破した日から読書好きに。気づいたら2時間散歩している。

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