先日、小倉の古書店で買った本『社会心理照魔境 1956年版』をざっと読んだ。なんともデータの細かい本で、ピンポイントで「1950年代の社会を知りたい」と思っているなら、貴重な本かもしれない。
1956年版ということで、第二次世界大戦が終結してから10年、これから高度経済成長期を迎えていくというタイミングである。(日本のGDPが世界2位になったのは1968年)
内容自体は2021年に読むにしては細かすぎで、全部に目を通してはいないが、当時からしたらかなり貴重なデータだったのではないかと思う。
光文社のカッパ・ブックスでの出版となっていて、著者は社会心理学者の南博(みなみ ひろし)である。本の裏表紙めいっぱいにプロフィールが贅沢に書かれているのだが、これがなかなかのインパクト。内容よりもこっちが気になった。
著者は東大医学部に入ったものの、心理学に転向して京大を卒業。そして、アメリカに渡って実験心理学と社会心理学を学んだ。その間、太平洋戦争が起こる。
友人はみな交換船で帰ったが、彼は、「日本に帰れば牢獄へ行く以外は、軍国主義者に間接的にせよ強力させられる。」と言って、一人アメリカに残った。しかし、生活は苦しかった。大学の心理学研究所へ通う自転車の後に芝刈り器をくくりつけ、金持の庭でアルバイトしながら戦争の終わるのを待った。昭和二十二年春、アメリカ軍用船の船底にもぐりこみ、中国の労力(クーリー)にまじって、敗戦の祖国へ帰ってきた。
『社会心理照魔鏡 1956年版』より引用
本の内容よりも、むしろ著者の人生のほうが気になった。アマゾンで調べてみると「南博セレクション」というシリーズがあるようで、その中でも『出会いの人生 – 自伝のこころみ – 』が気になった。中古でも5千円する。ちょっと今は買えないが、いつか読みたい本である。
400円でとりあえず買ってみた本だったが、本の内容よりも著者の人生が気になった感じ、読書の楽しさがあふれているようで楽しい。透明カバーが施されているし、新書サイズでスピン(平織りのしおり)もあり、丁寧な作りである。
1956年というのは、「新書」がではじめた時期でもあって、多くのサラリーマンが通勤中の電車で、このポケットサイズの本を楽しんでいた時期でもあるそう。
著者の自伝的な本、ちと高いが、マジで読んでみたい本だ。
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